うえきばちまちま
 あるところに、使われていない植木鉢がありました。
 お庭のはじっこに、ぽつんと小さな植木鉢。
 土は入っているのに、何も生えていません。
 他の植木鉢には、みんな綺麗なお花が咲いています。
 お庭の真ん中で、お日様を沢山浴びて、綺麗に綺麗に咲いています。
 なんにも無い植木鉢はぽつんと一人で日陰の中。
 でも、良く見ると、植木鉢の真ん中がお山みたいにもっこり盛り上がっています。
 毎日毎日見ていると、真ん中のお山はどんどん大きくなっていきました。
 そして、ある日。
 とうとうお山が崩れて、そこにはちまちまの顔が出てきたではありませんか。
 生えたてちまちま。でも、まだしゃべれないので、やっと出てきた顔を一生懸命揺らしています。
 一生懸命揺らしても、誰も気付いてくれません。
 ちまちまだって植物です。他のみんなのように、お日様をいっぱい浴びて、いっぱいいっぱい光合成がしたいのです。
 ほろり。
 やっと生えた顔をふるふる震わせるちまちまの、真ん丸な目から涙がぽろぽろ零れます。
 お日様欲しいな。
 お花さんはいいな。
 毎日毎日、ちょっとずつちょっとずつ生えながら、ちまちまは思います。
 お日様お日様。
 こっち向いて欲しいな。
「ちー、ま」
 ようやく首まで生えたちまちまが、ちまちまらしくちまちまと鳴きました。
「ちーま、ちーま」
 一生懸命揺れながら、一生懸命鳴いています。
 一緒にお日様浴びたいな。
 誰かお花さんのところに連れていってくれないかな。
「ちー、ちー、ちー」
 でも、誰も気付いてくれません。
「ちまー、ちまー、ちまー……」
 どんなに鳴いても、誰も気付いてくれません。
「ち、ま……」
 ぐすん。
 悲しいちまちまは、また涙を流します。
 遠くに見えるお花さんは、みんなでいっぱいお日様を浴びているのに、どうしてちまちまだけはじっこなのかな。
「ちまぁ……」
 ちまちまが諦めてしょんぼりしていると、そこに突然、黒くておっきなお兄さんが現れました。
「ちまっ!?」
 ちまちまはびっくりしてしまいました。びっくりして黒くて真ん丸な目をもっと真ん丸にしています。
 でも、機会は今しかありません。
「ちー!!」
 ちまちまは首から上しか生えていない顔を一生懸命揺らします。
 お日様お日様。
 お花さんの所に行きたいの。
 すると、黒くておっきなお兄さんは、ちまちまの植木鉢を持ち上げて、てくてく歩き出しました。
「ちまぁ♪」
 ことんと置かれた植木鉢。
 横にはお花さんがいっぱい咲いています。
 お日様もいっぱいです。
 ちまちまは嬉しくなってちまちま揺れながら、ちまちま鳴きました。
 ぽかぽか、さんさん。
「ちーま♪」
 黒くておっきなお兄さんはいつのまにかいなくなっていましたが、そんな事は気にしません。
 
 ぽかぽか、さんさん。
 お日様いっぱい。
 植木鉢のちまちまは、今日も光合成をしています。

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