蒼月記・創世
 何処(いづこ)かに。
 いや、ただ其処(そこ)に。
 想い馳せる距離は時同じくして。
 果てはまた、見え否(ず)。
 
 進む先に踏み出すとは即ち。
 前進であり後退であり。
 また上昇であり下降であり。
 右折であり左折であり。
 直進であり迂回であり。
 そのどれもに値せず、また全てに値し。
 等しく此(こ)れを成す。

 其処に在るのはただ。
 『秩序(コスモス)』と『混沌(カオス)』なり。
 
 二つは別けられていた。
 或いは。
 別れていた。
 永き。
 いや、はたまた短く。
 その断片は交わる。
 そして其処に。
 その二つとは、また異な存在(もの)が現れり。
 其れは。
 『無』と云った。
 
 『無』は意志を持った。
 程なく、『無』は『器(うつわ)』を創り出す。
 『器』はただ、『無』の手の中で、回る。
 無限の時を刻むかの如く。
 時は過ぎた。
 また程なく、『無』は己と同じく、意志ある者を創り出す。
 其れは六つにもなる。
 六つは『無』を『創主』と呼んだ。

 六のうち五つは『器』に放たれた。
 意志ある五つは、『器』に意志無き物を数々と産む。
 其れはまた永きに渡り。
 終えて、五つは『創主』の元に戻る。
 
 意志ある六つのうち一つ目が、『創主』に欲した。
「我らに名を」
 『創主』は六つに、それぞれ名を与えた。
 一番目に『アルハドル』。
 二番目に『ヴァダラック』。
 三番目に『シャルー』。
 四番目に『ムジヴァ』。
 五番目に『ペルセフ』。
 六番目に『ルーク』。
 六つは与えられた名を、大層喜んだ。
 
 意志ある六つのうち二つ目が、『創主』に欲した。
「我らに姿を」
 『創主』はまた六つに、それぞれ姿を与えた。
 一番目は『創主』に最も近き姿を望んだので、そのようにした。
 二番目は翼を持つ黒い龍の姿を望んだので、そのようにした。
 三番目は一本の角と一対の翼を持つ白い馬の姿を望んだので、そのようにした。
 四番目は九本の角と十六枚の翼を持つ異型の姿を望んだので、そのようにした。
 五番目は無数の腕と毒の付いた尾を持つ異型の姿を望んだので、そのようにした。
 六番目は何も望まなかったので、『創主』は己に近き姿を与えた。
 六つは与えられた姿を、大層喜んだ。
 
 意志ある六つのうち三つ目が、『創主』に欲した。
「我らに住処を」
 『創主』はまた六つに、『器』の中にそれぞれある場所を与えた。
 一番目には『現界』。
 二番目には『天界』。
 三番目には『霊界』。
 四番目には『冥界』。
 五番目には『魔界』。
 六番目はもとより住処を欲しなかったので、特に定めなかった。
 六つは与えられた住処を、大層喜んだ。
 
 意志ある六つのうち四つ目が、『創主』に欲した。
「我らに自由を」
 『創主』は六つ全てを、自由にさせることにした。
 六つは自由である事を、大層喜んだ。
 
 意志ある六つのうち五つ目が、『創主』に欲した。
「我らに永遠を」
 『創主』は六つ全てに、己と同じ永遠を与えた。
 六つは其れをまた、大層喜んだ。
 
 ただ一つ、六つ目だけは何も欲しなかった。
 『創主』は其れを大層喜び、六番目にだけ『創造の剣』を与えた。
 六つ目は其れを大層喜び、『器』の中に別の意志在るものを創ることにした。

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